引力からの脱出速度

自営業で失敗した洋食屋のせがれの独立志向

管理マネジメントの限界

 現代の組織のほとんどは、1900年代初期に描き上げられて以来、大して修正されていない基本設計図に基づいて構築されている。この工業化時代のパラダイムは、いわば「予測と管理」という原則に則って運営されている。つまり、事前計画を立て、一極集中型の管理方法を用い、軌道を外れないように気を配りながら、安定性と成功を手に入れようとするものだ。予測と管理のアプローチは、生身の人間が実際に関知した現実の歪みに基づいて、組織のデザインを絶え間なく進化させるのでは無い。むしろ、歪みの発生そのものを防止するために事前に「完璧な」システムをデザインすることに重点を置いている(完璧なはずのシステムに、組織のトップの人たちが「これじゃいかん」と気づいた場合には、組織改編が行われる)。
『HOLACRACY(ホラクラシー)』 ブライアン・J・ロバートソン


 経営幹部達が様々な制約のもとに下した選択や意思決定は、矛盾だらけで、実行性に乏しい事がままある。経営環境の変化は速く激しく、意思決定において配慮しなければならないステークスホルダーが増えるばかりの昨今、それは致し方ないことであろう。

 だからこそ、年度始めにマネジャーを勢揃いさせてポエムな目標をぶち上げたり、パワーポイントでその場しのぎの部門方針を作ったりしているだけでは現場の方向性は定まらない。そもそも経営幹部自身がそのセレモニーの翌日から予測しない課題に直面して、自ら打ち立てた方針から外れた仕事に追われることになるからだ。ビジネスが予測可能性を前提とできない時代になってきていることは明白だ。もっと現場に近いマネジャー達でも、なかなか成果が上げられないチームの生産性の低さを嘆きながら、自分達の出す指示よりも早くビジネス状況が変化するせいで指示そのものが陳腐化していることに無自覚であることが多い。


 であるならば、ここで「管理」を手放してはどうだろうか?
 上司の仕事は管理ではなく、Performance Capability(目標達成能力、ここでは業務遂行能力)の最大化であるべきだ。

 上司が部下を「管理」している限り、社員は「より変化の少ない定型的な業務」に勤しむことで会社への貢献をアピールせざるを得なくなる。つまり彼らは予測可能な、アウトプットしやすい仕事を好んで選択するようになる。「管理」している上司の「予測」の範囲から外れることはマイナス評価につながるからだ。

 その仕事には経営幹部のビジョンなど1mmも介在される余地はない。
 ましてやイノベーションなど期待できるはずもない。

 経営方針を理解し主体的かつ創造的に働く社員というのは近視眼的「管理」のもとには存在し得ない、という一見当たり前のこの道理を分らず、もしくは分っていながら無視する組織は徐々に上司と部下の間に溝ができてくる。上司が職務、つまり部下の管理に邁進すればするほどに、部下のパフォーマンスは落ちていくからである。